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２０１３年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に認定されて以来、世界中から注目を浴びるようになった日本酒。米どころで知られる北陸では昔から日本酒作りが盛んに行われ、ここ能登半島でも、全国へ出荷する地酒が作られています。若年層を中心に、国内でも人気の再燃しつつある日本酒を飲むとき、皆さまはどのような酒器をお使いでしょうか。

日本酒の酒器には、容量や口径の異なる、盃、お猪口（ちょこ）、グラス、ぐい呑み、徳利、升などの酒器があります。気軽に日本酒を楽しむには、お猪口よりも大きくて「ぐいっと飲める」を名前の由来とする、ぐい呑みが一般向きといえるでしょう。

ぐい呑み「楚々」は、日本酒をもっと美味しく飲めるように、昔から伝わる定番の形にアレンジを加え、飲み口を極限まで薄くしました。
薄く削った木地は歪みが出やすいために、通常よりも乾燥の工程に時間をかけ、ゆっくりと木地の状態が仕上がるのを確認してから形成してあります。
木材の持つ性質により、ある程度厚みのあるときには現れない木の節や目が、木地を薄く削ると出現してしまうため、木地の見極めにも神経を使いました。
通常製品と比べると、完成までにより多くの手間と労力のかかる「楚々」ですが、口あたりの良さをご体感いただきたく、採算度外視で薄さを追求してあります。

シャープな飲み口から伝わる飲み心地はどうかというと、何層にも塗り込められた漆が唇を優しく迎え、酒質をダイレクトに届けます。
漆器には、飲み物の風味をまろやかにする作用があるため、これまでの酒器にはない、香気と味わいを感じていただけると思います。
日頃から愛飲されている日本酒の風味を、「楚々」は格別なものへと変えてくれるはずです。

気がつけば陶器のものばかりが自然と集まっていたなど、お手持ちのぐい呑みは、好きな材質・形状に偏ってはいないでしょうか。
「楚々」開発にあたり田谷漆器店では、同じ日本酒の味がどう変化するのかを確かめるために、異なる材質のぐい呑みで、地酒を飲み比べてみました。
江戸のうすはり・薩摩キリコ・備前焼・波佐見焼・輪島塗の５種類のぐい呑みを使い、５人で飲み比べた結果は、予想を裏切る興味深いものでした。

同じ地酒なのだから、ぐい呑みの材質が違っても味に大差は出ないだろう、と思っていたのに明らかに味の印象が違うのです。
江戸のうすはりと波佐見焼からは、シャープできりりと引き締まった風味を、薩摩キリコからは重厚な味わいを、備前焼からは野性味を、輪島塗からは、まろやかさが現れました。
それぞれのお酒の身体への入りかたも異なり、輪島塗が一番ゆっくりと身体に浸透していくようでした。
飲む器によって味わいがいかようにも変化する、日本酒の持つ繊細な奥深さに、開眼させられた体験でした。
ちなみに、どのぐい呑みで飲むのが一番美味しいかは５人で意見が分かれ、結論は出ませんでした。
色々なぐい呑みで日本酒と対話する楽しさを、ぜひご自身でもご体感ください。