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子どもには、なるべく安全で安心なものを与えたい。
食事にはオーガニックな食材を選び、天然素材の服を着せ、自然と親しむように心がける……、現代社会の親たちは出来る限り、わが子が本物と触れあえる機会をもうけようとします。
けれども、全てを本物でまかなおうとすると、時間と労力がかかり金銭的負担も大きくなるため、現実的には難しい面も。
すぐに小さくなる子ども服や、小学校卒業と同時に使わなくなるランドセルのような、期間限定で使うものたちをどうするか。それも判断しづらい難問です。

そうこう考えながら周りを見渡すと、子どもの頃から大人になるまで、もっといえば本人が希望すれば生涯にわたり使いつづけられる本物は、ほとんどないと気づきます。
よしんば見つかったとしても、デザインが悪い・素材に耐久性がないなど、何らかの弱点を備えていたりします。
合成樹脂製品に駆逐され、もはや自然由来の本物は消え去ってしまったのだろうかと、つい弱気にかられてもしまいます。

食の安全性が問われるようになるに従い、最近では食器の原材料や塗料に含まれる有害物質の危険性についても、注意を呼びかけられるようになりました。
経皮毒の身体に与える悪影響を、ご存じの方も増えています。
とはいうものの、子ども用の食器については、一時的に使うものだからと割り切って間に合わせのもので妥協されているご家庭が、おそらく過半数を占めるでしょう。
あるいは、自然素材をうたった食器を使っていても、幼少期の使用を想定した製品であると、子どもの成長につれて、使用時に違和感を覚える場合もありそうです。

どうすればいいのだろうと堂々巡りに陥りますが、抜け道は意外なところにあるのです。
ここは逆転の発想で、大人用に作られている器を、子ども用として使ってみてはいかがでしょう。

一般の陶製の器は、たとえ小ぶりであっても重く、子どもの日常使いには不向きです。
ところが輪島塗の器なら、同サイズの陶製の器と比べて約半分の重さしかないので、成人向けの器を、子どもでも使えます。
おまけに衣類とは違い、たとえ持ち主が成長しても、輪島塗なら大丈夫。
摩耗も劣化もしませんから、その子の傍らでずっとその器は存在しつづけます。

ころん、とした丸いフォルムに懐かしさを覚えるのは、きっと子どもの頃に遊んだ、ゴムまりと様子が似ているから。
お椀「手のひら」は、一般的なお椀よりも少し小ぶりな、３寸程度（直径１０センチ）です。成人女性がちょうど両手で、すっぽりと包みこめる大きさです。
高台（こうだい　※器の下につけられた台）の見えない、お椀の下部から膨らむ形は、洋食器と一緒に使っても違和感のないようにデザインしています。また、今回は特別に、滑らかな口触りが楽しい輪島塗のスプーンも、セット価格にてお付けしています。

大人が使うにはやや小さめの「手のひら」ですが、子ども用に見立てると、丼や煮物椀にも使える大ぶりなお椀へ変身します。
初めは親が、後には子ども本人で、使いみちを発見する楽しみは、創造性を養う絶好の機会となりそうです。

幼稚園の年少さんのときは、風邪をひいた朝に、お椀におかゆをよそってあげた。
小学生になると、自分でお椀にカレーライスを盛りつけて食べられるようになった。
中学生のときには、漆器の断熱性と保温性を生かして、お椀の中のアイスクリームの冷たい触感を味わっていた。
高校時代には、ご飯を少な目にお椀に盛り、ダイエットにご執心。
社会人になってからは、漆の朱色に映える和のスイーツを入れて、見た目の美しさも味わって。
そして今は、何も入っていないお椀をベッド脇に置いて、朝夕に眺めているーー。

「手のひら」は、我が子のそんな月日とともにあります。
持ち主の人生に寄り添い、心の豊かさの更新を手助けしてくれる器。

ひとつの器を、生涯にわたり慈しんで使いつづけるということ。
ひとと器の辿る道のりは、ものを大切にする心と美意識を養う、暮らしの稽古に通じるのではないでしょうか。